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ドラゴン桜とプログラミング

pen-icon2024.4.11

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この記事の筆者:三好アキ


🔹 Amazonベストセラー1位を複数回獲得している『はじめてつくるReactアプリ with TypeScript』著者。

🔹 自身のJavaScript挫折経験をもとに、HTMLとCSSの知識だけで本格的なアプリ開発を始められる入門書を多数執筆中。合計著作は22冊を超える。

🔹 専門用語なしでプログラミングを教えるメソッドに定評があり、1200人以上のビギナーを、最新のフロントエンド開発入門に成功させる。


Amazon著者ページはこちら → amazon.co.jp/stores/author/B099Z51QF2



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私の本のコンセプト

私は過去3年間で20冊以上のビギナー向けプログラミング教本を書いてきましたが、最初に出した本から重視しているコンセプトがあります。

「知っていること」よりも「できること」。

頭の中での抽象的な理解や知識の拡充を目指すのではなく、「自分の手で何かができるようになる」という行動性の重視です。

私たちが助詞と助動詞の違いを知らなくても日本語を話せるように、「知っていること」と「できること」は違います。

ビギナーに必要なのは「小さな成功体験」

学び始めの初心者はみな不安です。

そのような不安を打ち消してくれるもの、それは先生・講師の励ましや小さな一言だったりしますが、それよりももっと力強いのは、「自分にもできそうだ」という楽観的な気持ち、いわゆる「自己肯定感」や「自信」と呼ばれるものです。

このような楽観的な気持ちを感じてもらうため、私の教本では最速最短でひとつ成功体験を作ることを一番の狙いとしています。


ここ数日、私が一番最初に出した教本『はじめてつくるReactアプリ』とその発展版『はじめてつくるReactアプリ with TypeScript』という本の第2版への改訂作業を行っていました。

はじめてつくるReactアプリ with TypeScript

【2024年4月新版発売。HTMLとCSSの知識だけで始められるReact + TypeScript開発。好評なハンズオン形式でスイスイ進める】

2079円0円

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読み返していて、この本こそ「最短最速で成功体験をつくる」や「『知っている』よりも『できる』こと」というコンセプトを徹底したものであり、そして以後の教本執筆のベースになった本だったと改めて感じました。

コンセプトの由来となった英語の本

「小さな成功体験によるモチベーション上昇」というコンセプトは、私がJavaScriptというプログラミング言語の勉強で挫折したときの経験がもとになっています。

そして「『知っている』よりも『できる』こと」というコンセプトは、私が英語学習で使っていたある本の一文に由来します。


話が少しそれますが、英語であれ日本語であれ、会話で重要なことはなんでしょうか?

たくさんありますが、そのひとつは間違いなく応答速度です。

どれだけ文法的に正しい文章だとしても、それを口に出すまでに10分も20分もかかっているようでは会話が成り立ちません。

先ほど触れた英語学習本には、「正しい英文でも、それを15分もかかってようやく話せる/書けるようでは意味がない」といったことが書かれており、この一文は10年以上経っても頭の中にこびりついています。

私がこの本を使って勉強をしていたのは留学をする前でしたが、留学してから実際に「正しい英文を頭で考えるのに時間がかかりすぎて、会話がスムーズに進まない」という体験を自分自身で何度も味わったことも、この文章が頭にのこった大きな理由でしょう。

『ドラゴン桜』の英語

「15分もかかってようやく話せる/書けるようでは意味がない」と書かれていた英語学習書とは、『ドラゴン・イングリッシュ 基本英文100(竹岡広信/講談社/2005年)』という本です。

今回、数年ぶりに読み返してみて、この本には実用的なメッセージが数多く書かれていることに気がつきました。

以下、引用しながら紹介します。これらはすべて冒頭の「はじめに」に書かれていることです。


(*既存の英語教本との違いを述べる箇所)

『.....市販されている英文集を分類すると、次のようになります。

  1. 日本人の著者が「自信をもって」書いた英文のため、英文そのものが不自然なもの。もしくは英米人の発想が前面に出すぎていて、日本人にはとうてい書けないもの。

  2. 文法・構文を網羅しようとするため、一昔前の「頻出熟語」や「頻出構文」を意識しすぎていて、英作文には必要のないものまで多く含んだもの。

  3. 筆者の趣味が色濃く出ており、とりわけ時事的なものを取り入れることによって「新しさ」を主張するが、実際に使う場面がほとんどないか、あるいは使う必要のないものを多数含んだもの。

そのような無駄で非効率的な英文集と、この基本英文100は一線を画します。』

竹岡広信「ドラゴン・イングリッシュ基本英文100」p.3


(*英語を書くために必要な知識は限られていると述べる箇所)

『そもそも、まともな英文が書けないレベルの日本人の学習者に、「表現の幅」だとか「気の利いた表現」が必要だとは思えません。とにかく、「ある状況に対して最低限ひとつの表現が必ずできるようにすること」--- これが英語上達の基本です。』

竹岡広信「ドラゴン・イングリッシュ基本英文100」p.4


(*日本語を英語に訳す試験問題について、従来の英語教育の問題を述べる箇所1)

『「いちばん有り難い」「素朴な疑問」「触発されて」「思いもかけない発見」などを何分もかけて考え「英作文」しているうちは、英語は絶対話せるようになりません。日本人は、そんなことばかりしていたから英語が使えなくなってしまったような気がします。大学受験で問われているのは、「あなたは英語が使えますか?」ということです。「話せる英語なんて安物だ」なんて訳のわからないことを言っている時代ではないのです。』

竹岡広信「ドラゴン・イングリッシュ基本英文100」p.6


(*日本語を英語に訳す試験問題について、従来の英語教育の問題を述べる箇所2)

『「好奇心のかたまり」「好奇心を示さなくなる」「さまざまなことに興味を持ち続ける」「いつまでも子どもでいられなくなる」と同じような表現がダラダラと出てきて、最後が「かもしれない」といかにも日本語という感じの文。こんな文を1文ずつ分析して教えるなんて化石のような授業ですね。「とにかく訳す」ではなくて「何を伝えるか」を考えてください。』

竹岡広信「ドラゴン・イングリッシュ基本英文100」p.8


(*いまだに私の印象に残っている箇所)

『語学で大切なことは「ぱっと口から出てくるかどうか」です。基本英文100も、受験生が覚えやすく、かつ使いやすいことは選定基準となりました。「15分も考えてやっと1文書けました」なんていうことをやっていると、試験で得点できないばかりか、「本当の英語力」も身につきません。』

竹岡広信「ドラゴン・イングリッシュ基本英文100」p.10

人が本を執筆する理由

今回「ドラゴン・イングリッシュ 基本英文100」を読み返していて、人が本を執筆する理由のひとつは、やはりある種のフラストレーション、つまり「怒り」にあるのだと思いました。

既存のものが「真実」を語っていないというフラストレーションと、その「真実」を世に問うてみたいという欲望。

「ドラゴン・イングリッシュ 基本英文100」の著者も、既存の英語教本がシンプルなことをいたずらにむずかしく、必要以上にゆがめて語り、それが多くの人を苦しめていることに苦々しさを感じていたのでしょう。

上に引用した「まえがき」に並ぶ刺激的な言葉だけを読んでもそれは明らかです。

自分の「正しさ」を証明する理由

「ドラゴン・イングリッシュ 基本英文100」のコンセプトは、「英作文はこの100個の英文を覚えるだけで十分」ということです。

最近の英語学習書のトレンドを私は知りませんが、少なくともこの本の初版が出た2005年当時は革新的なコンセプトであったのではないでしょうか。

そのため、既存の英語教材を使っていた人や、それらの教本の著者たちが「100文で英語が使えるわけがない」や「英語を使うためには文法をすべて覚えないといけない」といったことを主張したり、少なくともこころの中で考えたりしていたであろうことは容易に想像ができます。

それでも出版から20年近く経ち、Amazonではポジティブなレビューが圧倒的で、そして何より私自身がこの本のおかげで「使える英語」が身についたことを考えると、「ドラゴン・イングリッシュ 基本英文100」の著者が考える「正しさ」は、本当に正しかったのだと証明されています。

「一般的ではないが、しかし少なくとも自分は『正しい』と考えているあるコンセプトを世に問うこと。そして人々の支持を受けることをもって、その『正しさ』を証明すること」。

誰に対して証明するのかと言えば、「社会に対して」でも「ライバルに対して」でも「親に対して」でもなく、「自分に対して」です。

私たちは、どんな奇天烈なことでも頭の中では「正しい」と考えることができます。

しかし「他の人は信じていないけど、この世の中で自分だけがそう考えている」という状態に不安を覚えない人はいません。

「正しいんだ」と自分自身で本当に受け入れるためには、他の人からも「正しい」と認めてもらう承認が不可欠だからです。

私たちがたったひとりでは自分自身を信じられないのは、人間が根本的に社会的な動物であり、社会、つまり他者とのつながりのなかでしか生きられないからでしょう。

他の人から批判されたり、拒絶されたりすることに不安を覚えながらも、それでも自分が正しいと信じることを世に問うこと。そしてそれを他の人に受け入れてもらい、自分自身に対して「ああ、やっぱり自分の考えていたことは正しかったんだ」と言えること……。

このような人生の真実の姿をひとつ、数年ぶりに「ドラゴン・イングリッシュ 基本英文100」を読み返しながら垣間見たような気がしました。

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